猫は瞬間移動する

今は台風がそれて一安心しているが、
その夜は雨も降っており、なんとなく不安であった。

セキュリティーロックを掛けて、ふと目を上げると、
猫が向かいの軒先で雨宿りをしている。

雨で家々の扉は固く閉ざされ、
主人のいない猫にとっては、誠に気の毒に思えた。

「...食べていないのか?」

一瞬、猫の姿が闇の中に消えた。

猫がいなくなったので、帰ろうと思い振り返ると、
背後に来ていて、非常に驚いた。

なでしこ Japan の澤選手をマークしていたディフェンダーのように、
見事に死角を衝かれた格好だ。

セキュリティーを解除してまでエサを取りに戻るのが面倒だったので、
可哀想に思ったが、そのまま帰ってしまった。

翌朝、猫が道端を歩いていたので声をかけると、また背後の塀にワープした。
エサを与えると、「うにゃーん」と鳴いた。

小さい痩せぎすの猫。